英語のリスニングには、大きく分けて3つの能力が必要になります。
一つ目が「聞き取り(英語の発音を聞き取る能力)」で、二つ目が「読解(英文から意味を読み取る能力)」、最後に「作業記憶(聞き取った英語を一時的に頭の中に保持する能力)」です。
一つ目と二つ目の能力は説明されなくてもなんとなく分かると思いますが、ちょっと分かりにくいのが3つ目の能力です。そこで今回は、この3つ目の「作業記憶」について解説したいと思います。
作業記憶とは
この作業記憶の能力は、英語で「ワーキングメモリ」などと言われ、最近よく耳にする事も多くなりました。
パソコンで例えると、YouTubeなどの動画を再生している時に行われている「バッファリング」という工程がこれにあたります。
これは、ネット上から流れてきたデータを直接再生しているだけでは、転送速度が落ちた時にスムーズな再生ができないため、予めある程度のデータをパソコン上のメモリに貯めて(バッファリング)おき、そのメモリを介して再生することでいつでもスムーズな動画再生が行えるという仕組みです。
リスニングを練習する時にも作業記憶は必要
私たちが日本語を理解する場合は、聞いた音から直接意味を理解でき、また文章の並びも変える必要はないので、この作業記憶の使用はそれほどではありません。
しかし、頭の固くなった大人がリスニングを練習する際には、この作業記憶という仕組みが大いに役立ちます。
ネイティブやバイリンガルでない私たちが英会話を理解する場合は、まず英語を聞き取り、その意味を日本語に置き換え、さらに単語の並び順が日本語と違うため、最後まで文章を聞いた後、記憶してある単語から意味を組み立て直す必要があるからです。この時、作業記憶の領域が広ければ広い程、この翻訳の作業はやりやすくなります。
バイリンガルの人に大きな作業記憶領域はいらない
バイリンガルの人達に、このような複雑な作業は必要ありません。日本語と英語でその都度、カチカチと器用に脳内の回路を切り替えているからです。
ただ、この英語を瞬時に理解できるという能力を持つバイリンガルの人達が、優れた同時通訳能力を持つかというと必ずしもそうではありません。
というのも、同時通訳者は英語を理解するという能力に加えれ、我々と同じように英語を意味の通る日本語に置き換えるという作業が必要になるからです。さらに同時通訳には、相手に正確な日本語で意味を伝えるという工程が加わります。また、これを次々に聞こえてくる英文を聞き取りながら行うのですから、かなり大きな作業記憶の領域が必要になります。バイリンガルの人とはやっている作業の難易度が大きく違うのです。
日本語によるシャドーイング
この同時通訳者の為の初級トレーニングに、「シャドーイング」という作業記憶の領域を広げるトレーニングがあります。これは、英語を聞きながら少し遅れて、同じ英語を発音するというものではなく、日本語を聞きながら少し遅れて日本語で話すというトレーニングです。
なぜ英文でシャドーイングをしないのかというと、実際の同時通訳の際は、聞き取った英単語を日本語に置き換え脳内に留めておき、英文を最後まで聞き取ったところで意味の通る日本語に置き換える必要があるからです。つまり、あえて日本語でトレーニングを行う事で、実際の同時通訳時に効率よく意識的に日本語を使う事ができるようになるという訳です。
これから英会話を習得しようとする我々も、この同時通訳者のトレーニング方法が参考になります。もちろん、同時通訳者と違って、正確な日本語で相手に伝えるという工程はありませんので、難易度はずっと下がりますので安心してください。
また、このシャドーイングのトレーニングは、普段見ているテレビやラジオの音声に合わせて行うだけなので、お金も掛からず手軽に始めることが出来ます。
さらに高度なトレーニング方法
また、この作業記憶を鍛えるトレーニング方法として、短いセンテンスを何度か読んで覚え、正確に声に出してみるという方法も有効です。これは、英字新聞や英字の小説で、ネットニュース等なんでも構いません。